『TITLE:   』 ――其等は最高到達点也

5月5日

 

春もいよいよ終盤にさしかかる頃、ある男がいた。

その男の頭には、「間に合わないかもしれない」という焦燥感のみがあった。

オモコロ杯に出場しようと思い立ち、様々なアイディアを出してはみたものの、一向に「これだ!」というブログが書けずにいたのだ。

 

「どうしようか……。」

 

男は途方に暮れるしか無かった。しかしこのまま腐っていても作品は出来上がらない。

とりあえず頭に思い浮かんだ案を箇条書きでまとめる。

 

 

 

 

何か行動を起こさなければ、という漠然とした心境のまま、男は企画を始めた……。



×××

 

ストロー100本繋げてみた!

どうも、鮭酒 咲(しゃけざけ さき)と申します。

さて、今回はどこの百均でも手に入る100本入りのストロー。


「これを全部繋げて一本にして飲み物を飲んでみたい」と幼稚園男児のような小さな夢を叶えてみたいと思います。

繋げ方ですが、下図のように先端を少しすぼめてやると、

このように

繋げることが出来ます。

 

後はこれを100本分やるだけです。


…………

そして。

 

終えました。さすがに全長が長すぎるので、今回は近所にある川へ来ました。

車の横にあるペットボトルが始点です。

こうしてみると、なかなか大きいことが分かります。
メジャーで測ってみると、約17メートルありました。長い…。

では早速吸っていこうと思います。



「……………………………………………………………………………………………………(酸欠)」

 

結論としてはこの長さになると吸うだけで体力を使い、しかも結局水は飲めない、という散々なものでした。

ですがこれ自体は肺活量のトレーニングには有効なのでは無いか、という気がします。

ではまた、近いうちに。

 

×××

 

「これじゃダメだ!!!」

男はそう叫び、書いたデータを全選択し、消去した。

盛り上がりに欠け、オチも弱い。案では3階から飲んでみた場面もあったのだが、田舎にそんな大きな建物はあるわけがない。
こんな不完全な作品で金賞を狙いに行くなんて烏滸がましいにもほどがある。

最初の箇条書きのメモ、その1つ目の項目に線を引き、次の企画へ移る。

 

×××

 

大袋の飴を全部溶かして1つにしてみた!

どうも、鮭酒 咲(しゃけざけ さき)と申します。

さて、今回はどこのスーパーにも売ってる大袋の飴。



「これを全部溶かして一つにしたら永遠に舐めてられるんじゃないか」という食い意地の張った幼稚園男児のような純真な夢を叶えてみたいと思います。

 

まずフライパンにクッキングシートを敷き、その上に飴を乗せます。
今回は塩レモンの方を使います。

ひたすら乗せて、溶けて形成されるように型を作り、用意します。

後は加熱するだけ。焦げないように気をつけつつ極弱火で溶かして冷蔵庫で固めて…。

 

出来上がったものがこちら

冷蔵庫に入れる際に誤って割ってしまいましたが、大きいものが出来上がりました。

それでは、いただきます。…パクッ

「う~ん、可も無く不可も無く……」

 

結論としては、個包装には個包装の良さがあることを再確認することになりました。
これだけ大きくても、口の周りがベタベタするだけで味に集中できませんでした。

ですがこれを炭酸水等に入れるとレモンの味付きになるのではないでしょうか。

ではまた、近いうちに。

 

×××

 

「これじゃダメだ!!!」

男はそう叫び、書いたデータを全選択し、消去した。

ただただクッキングをしただけ。まだキューピーちゃんの方がバラエティ豊かだ。
こんな作品で金賞を狙いに行ったら、「チラ裏」の一言でポイーされてしまう。

メモの2つ目にも線が入り、残る企画は1つになってしまった。

 

×××

 

一級河川下流から上流へひたすら上ってみた!

どうも、鮭酒 咲(しゃけざけ さき)と申します。

さて、今回は皆さんのお近くにある川。



「その中でも規模の大きい一級河川を徒歩で上ってみた」という冒険心を抑えきれない幼稚園男児のような夢を――

 

×××

 

「いや無理だが!!!!」

男はそう叫び、書いたデータを全選択し、消去した。
体育の評定が万年2の陰キャには荷が重すぎる。


そもそも一級河川とは、国による「川重要度トリアージ」の上位勢として在るものであり、川の長さは二県に跨がるレベルの規模が殆どである。

したがって出不精の俺にはハードルが高すぎるのだ。
そもそも上るには時間が足りないというのもある。

 

 

 

「万策尽きた……もう何も出来ない……」

メモには3つの項目それぞれに線が引かれており、残る企画は何も無かった。

男はオモコロ杯出場を諦めようかと考えた。しかし「参加することに意義がある」という先人の言葉を思い出し、その考えを捨てた。

「かといって何が……」

煮詰まってしまったまま時刻は深夜2:00を回っていた。
このまま起きていても何も案は出てこないだろう。

「そうだ、こういうときは1度寝て、考えをリセットするんだ……」

そうすれば何か良い案が出るかも、と考えた。いや、これは思考の果てに行き着いた最善策などでは無く、ただの希望的観測。願望である。事態が好転する保証など無いのに、その楽観的意見に従ってしまうほど男は消耗していた。

 

「金賞を取って、バーグハンバーグバーグの社員になりたかったな……」

 

男の根底にある本当の夢。しかしその夢は現在進行形で男の手からこぼれ落ちている。
イムリミットという砂時計の砂のように。

 

 

 

※※※

 

 

 

夢の中で男は悩んでいた。

 

 

どうして、自分には文章力が無いのか。
どうして、自分には企画力が無いのか。
どうして、どうして、どうして…………。

 

 

……………………………………………………………………………………。

 

 

どのくらい悩んだだろう。夢の中だから判断しかねるが、相当時間をかけて悩んだ末。

 

 

男は、ある考えに至った。

 

 

【どんなクソ企画でも、どんな下手な文章でも、結局それは誇るべき自分の作品である】

 

 

企画力が無い。ならばノリと雰囲気で突き進め。

文章力が無い。ならば写真や絵で魅せていけ。

人気が無い事を恐れるな。自分という創作者に誇りを持て。

自分だけは、作品を愛してあげよう。それが創作において何よりも大切なことなんだ。

 

 

「あぁ、ようやくわかったよ」

 

 

男の顔にはもう不安の表情など一切無かった。
今まで実際にやってきた2つの企画。面白いかどうかなんて二の次だ。

俺は、あれを面白いと思ったから行動に移してみた。
俺は、消した文章を本当は面白いと思っていたんだ。
他の、どんな投稿作品にも負けない個性があると信じている。

 

俺は、この作品群を誇りに思っている。

 

 

身体が軽くなる感覚がし、やがて男は夢から覚める。

 

 

 

※※※

 

 

 

×××

 

 

 

 

 

 

5月※日

 

 

「短編集、のようなものなんだよ。決して、下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる的な信念のもと書き上げてはなくて。」

 

 

「あぁ、供養とは思っていないよ。むしろどうぞ見てくれってすら思う。だってこれは俺の作り上げた最高傑作なんだ。作者が愛さなくなったら、他に誰が愛してやれるんだ?」

 

 

「タイトル…?――あぁ、それはね、あえて空白なんだよ。主役が2人もいて、共通点も薄いだろ?だから長々としたタイトルを入れるよりだったら、空白にした方が彼らにとっても良いだろうと思ってさ。」

 

 

「……うーん、それでもあえて付けるなら?そうだな……、じゃあ『――――